ごろん、と行儀悪く畳の上に寝転がる。
暇だ。暇なんだ。ひーまひーまひまひーまー。
元就さんの城に来たはいいものの、執務が終わるまでここで待ってろと言われ。
なにやら書き物をしている元就さんの背中を見つめつつ、絶賛放置プレイ中だ。
番外編 誰の言葉
「…元就さん、暇です」
「あと少しで終わる。黙って待て」
「だって。そう言い出してから、もう何刻過ぎたと」
「黙れ」
ぺいっと書物を投げられた。頭にヒットする。言葉にできずに悶絶する。
…角が当たりました。なんで後ろ見てないのにそんなにコントロールいいんですか。
ぐあー、痛い!と畳の上をゴロゴロと転げ回っていると、部屋の隅にあった書棚にぶつかった。
ごぃん!といういい音がして、私は動きを止める。っくぅ、頭に…クリーンヒットっ…!
悪いことは続くもので。
その体勢のまま動けないでいると、バサバサがらんがらんドサドサズシャー…と、書棚の上から物が落ちてきた。
見事に全部ヒットした私を、さすがに哀れに思ったのか元就さんが振り返って見ている。
…その眼差しがつらい。
「…器用だな」
「…褒め言葉として受け取っておきます」
物に埋まった状態から、もぞりと起き上がる。体の上に乗っかっていた色んなものが、ばらばらと落ちた。
周りを見渡すと、想像以上の物、物、物。その多さに、よくぞ無傷だった…と自分の体の丈夫さに感謝する。
タライがなくてよかった。あればリアルコントになるところだった。
ゴーン!ってこの静かなところで鳴るんだよ、あの間抜けな音が。もしそうなってたら自分で爆笑しちゃう。
しばらく半身を起こしたままぼけーっとしていると、元就さんにさっさと片付けろと怒られた。すみません。
あー、片付けるか。自業自得だもんな。とりあえず手近にあった本やらなにやらを拾い上げる。
これはここに入れて、これは箱の中?いーやもう適当で。何これ、地図か。
元就さんが執務している後ろで、がさごそと大雑把に片づけを始める。
まったく、こんなに棚の上に置いてるからいけないんだ。地震が起きたらどうするんだ。
地震対策について頭を悩ませていると、ようやっと元就さんが執務を終えたようで、後ろから覗き込んできた。
「また派手にやらかしたな」
「すみません。まあ大体元のとこに戻してますから」
そう言いながら、また適当に本をつっこむ。いーんだよこんなの適当で。
やってられっかと思っていたら、元就さんにちゃんと片付けろと言われた。すみません。
ようやく散らかっている物が半分くらいに減った頃。
弓矢が落ちているのを発見した。へー、元就さんこんなの持ってるんだ。
優雅に茶をすすっている元就さんの方へと振り返り、声をかける。
「ねえ元就さん、弓矢とか持ってるんですね。得意なんですか」
「まあ、人並みには扱える」
「すごい。おれ全然無理ですよ」
「我からすれば、はできないことが多すぎだ」
ぐさっときた。
小さい頃から英才教育を受けている元就さんに比べれば誰だってできないことのが多いですよ。
…とは言えずに、口をとがらせる。ふん、いいですよ。商売は私のがうまいはずだし。
つうっと、矢の棒の部分を指でなぞる。なめらかな手触りで気持ちいい。
そこで、ふとある諺を思い出した。
「元就さん。三本の矢って話ご存知ですか」
「いや、知らぬ」
よし、じゃあ一つためになる話をしてしんぜようではないか。
矢の束から三本引き抜いて、はいっと手渡す。元就さんは不思議そうな顔をして受け取った。
そして自分は一本の矢を手にする。準備完了だ。
「これは、一本の矢がひとりの人間を表しているんですね。
おれが持ってるのはひとり、元就さんが持ってるのは三人です」
「矢が人間であるなど、認めん」
「たとえ話ですから。じゃあ、力入れて折ってください」
「人間を折るのか」
「折ります」
「…、忘れてるようなら言ってやろう。これは我の矢だが」
「けちくさいこと言いなさんな。また店から持ってきますよ」
そう言って元就さんを促す。ほれほれ、さあさあ。
「じゃあ、せーのでいきますよ、せーのっ」
ばきっ。
いい音が鳴って、矢が折れた。…元就さんの手にあった、三本の矢が。
私の手には、無傷の矢が一本。…あれ?
「これがどうした」
不思議そうに元就さんが聞く。
…えーと。えーと。こんなはずではなかったんだけどなあ。
「…つまり、人間は一人の方がたくましく生きられますよ、という話です」
へらりと笑って平然と嘘をついた。…いーんだ、元の意味知ってるの私だけだし。
興味があるようなないような顔をして頷いている元就さんを見ながら、
また妙なことを吹き込んでしまった、と心の中でため息をついた。
09/02/28
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