空が、蒼かった。



見下ろした地は枯葉に埋もれ、その隙間を縫うように、木々の根が力強く隆起している。
空気は瑞々しく、生茂る植物達は生命力に満ち溢れ、周囲に青い香りを放っていた。
己の跨っているものは、命を持つものとしては至極当たり前の熱を持ち、
呼吸をする毎に脈動し、緩く動く。当たり前のことだった。


―――数年前迄は。


未だに、少し、混乱していることを自覚した。
掌が、じっとりと汗をかいていた。
そうしてまた、身の回りの異変に一つ気付く。
手の内の物が、殴打するためものから斬るものへと変わっていた。否、戻っていた。

周囲を再度見渡し、見覚えのある庵を見つけた。
自然に守られるように囲まれたその庵は、随分と荒れ果てていた。
長い期間、人による手入れがされていないと一目で分かる程に。
だが、木漏れ日の中に浮かぶその荒れた庵は、何故か美しく感じた。
何もかもが、眩しかった。


―――嗚呼、還ってきたのだ。


漠然と、そう思った。






 


09/08/11