定期的にさんから送られてくる商品の中に、やけに大きな丸い包みがあった。
丸いといっても、薄い。円盤状とでも言えばいいのか。
はて。こんなものを仕入れた覚えは無い。これは一体なんぞや。
首をかしげていると、商品の目録と一緒に一通の手紙が同封されていた。
面白い武器が手に入ったんで送る。とやる気の無い字で書かれている。
うわあ。なんか面白くなさそう。字面と文の内容を一致させて欲しいものだ。

目録をぺらぺらとめくり、武器の項目を探す。お、あったあった。
『輪刀 令音望』?なんじゃいそりゃ。れいおんぼう?





番外編 なによりも綺麗で、ねえ、それでも





「そんなこんなで、さんからこんなものが届きました」
「なんだこれは」
「さあ。れ、れ、れいおんぼう?とかいう輪刀です」
「輪刀か」



そう言って、元就さんは部屋の壁に立てかけてある輪刀をちらりと見る。
よく使い込まれたその輪刀は、手入れもバッチリ行き届いている。
元就さんも中々武器を大事にする人で私は嬉しいよ。
そりゃあ新しいもの買ってくれた方が儲かるけど、ものは大事にしないと駄目だ。



「これは今元就さんが使われているものとはまた違う使い心地のようですよ」
「違う使い心地とは、何だ。具体的に言え」
「急所に当たる確率が上がるらしいです。結構良い品みたいですよ、このれ、れいおんぼう?」



がさがさと大雑把に包みを開けていく。几帳面に開けてられるかめんどくさい。
その中身が目に飛び込んできたとき、私は思わず「ワーオ」と歓声を上げてしまった。
元就さんも驚いたようで、普段は細い眼をまんまるに見開いている。


「…虹、か」
「す、すごい。すごいですよ元就さん、虹だ」
「そのようだな」



手に持って、目の前に掲げる。虹色に輝いた大きな輪。なんと綺麗な。



「たまに太陽の周りに、こんなまんまるの虹が出るって言いますね」
「ああ、見たことがある」
「おおッ、さすが太陽毎日見てるだけはありますね」
も毎日見ればよかろう」
「おれ真っ直ぐ太陽見ると目に染みて」
「軟弱だな」
「返す言葉も御座いません」



そこでピンと閃く。



「そっか、令音望。レインボー!元就さん、この武器はレインボーと言います」
「令音望?」
「はい、レインボー」



そっかそっか、虹イコールレインボー。うんうん、それなら分かるってもんさ。
この時代に何故英語?とかは気にしてはいけない。うん、いけない。
それにしてもどこぞの不良みたいな当て字だなまったくけしからん。

内心そんなことを思いながらまじまじと眺めてみたけど、輪刀とはいえ虹にしか見えない。
おまけに片手でも支えられるほど軽い。虹だから?虹だからなのか。
そっと虹の部分に手を伸ばして、触れてみる。だがしかし、私の手はするりとその虹をすり抜けてしまった。



「…あれ」
「…、何をしている」
「いや、あれ?なんで。うそー」



すかすかすか。何度触ろうと手を伸ばしてみても、その虹にはまったく触れられない。何故。
柄っていうのかな、握るところはちゃんと持てるんだけれども。
おまけに、なんだかヒヤリとしている。水蒸気か。虹だから?虹だからなのか。



「…おかしいな」
「貸してみろ」
「はい」



元就さんが伸ばした手に、輪刀を預ける。「…軽いな」と小さく呟いた元就さんは、
しげしげと虹を眺め、私と同じように手を伸ばした。カツン、と音がする。



「触れるが」
「えーうそだ!」
「我がここで嘘を言ってなんの得がある」
「それもそうですね」



おかしいな。さっき私が触ろうとしても全く触れなかったのに。
首を捻りながらも手を伸ばして、さっきみたいに虹に触ろうとする。
ペタ、と冷たい感触がした。馴染みのある、輪刀の感触である。



「あれ、なんで。触れる!」
「武器も人を選ぶということではないか」



何気に失礼な元就さんの言葉はスルーする。
いちいちショックを受けていたらあっという間に心臓が大怪我ですからね。ブロウクンハート。
右手を軽く握り、関節でノックをするように叩けば、キン、と涼やかな高い音がした。

そんな私の様子を眺めていた元就さんに、目線でもう一度貸してくださいと訴えてみる。
想いは通じたようで、無言で輪刀を差し出された。なんとなく重々しい面立ちで受け取る私。
ぎゅっと柄を握って、深呼吸。ああ、なんでこんなシリアスやってんだか。
そろりそろりと伸ばした指に、虹が触れる。ことはなく。
元就さんの広い執務室に、するり、と空しい効果音が響いた気がした。沈黙。



「なぜ!どうして!如何に!」



ガッデム、と内心叫びながら頭を抱える。
あれか、あれなのか。元就さんの言うとおり、武器も人を選ぶというのか。
チクショウ、どうせ私はただの店主だ。まだまだひよっこですみませんでしたね。

うがぁ、と暴れている私を他所に、元就さんは私が放り出した輪刀を手にとって
振り心地などを確かめている。そうこうしているうちに私の腹の虫も治まってきたので、
いそいそと行儀良く座りなおす。さあ、商談である。



「どうですか元就さん。軽いし良い品ですよこれは」
は触れなかったが、まさか不良品ではあるまいな?」



にやり、と。不敵な笑みを元就さんが浮かべる。
今まで幾度となく目にしたその表情に、私の浮かべた笑みもヒクリと引き攣る。
元就さんがこの笑みを浮かべているということはですね、
いちゃもんを付けて値を下げようとしているってことですよ。
金持ちの城主のくせに。…なんて思っていることは勿論顔には出さない。つもり。
が、出ちゃってたらしょうがない。うん、出ちゃったもんはしょうがない。



「嫌ですね。これはあれですよ」
「なんだ」
「戦場で武器を奪われたとしても、相手に利用されないためなんですよ。わぁ素敵防衛策」
「思い付きだろう」
「ばれましたか」



てへ、と舌を出すと、べしんと遠慮なく頭をはたかれた。痛い。
「男がその様な仕草をしても薄ら寒いだけだ、気味が悪い」と見下される。
まあその意見には同意できるので、今回は大人しく引き下がる。調子乗ってすみませんでした。



「…まぁ、良い。いくらだ」
「7万両になります」
「次回の支払いでまとめるが、良いな?」
「構いませんよ」



よっしゃ、値切られなかった。勝ったよ、私勝ったよ。
いそいそと契約の書類を作って判を押し、無事元就さんの得物になった輪刀を見る。



「それにしても綺麗ですよねえ。なんでおれが持ってると触れないんだろう」
「嫌われているのではないか?」
「虹に?うそだあ、まさかそんなはずは」



その時は暢気にあははと笑っていたのだけど、
後日元就さんに「我の駒でも普通に触れたが」と真顔で告げられ、
本気でちょっと悩むことになった。…なんでだ。





09/07/01