今日は、料亭で付き合いがある同年代の人たちと飲み会である。
飲み会、という言葉を聞いただけで、酒好きの私はテンションが上がる。
うきうきしながら人差し指で小さなボタンを押すと、ぴんぽーんとなんとも間抜けな音がした。
がちゃりとドアが開くと、綺麗な銀髪がひょこりと覗く。
わあわあと既に騒がしい声が聞こえた。なんだよなんだよ、私をさしおいて盛り上がってんな。
「よぉ、来たか!」
「来たともさ姫ちゃん。これは土産ですよ」
ひょい、と右手に持っていた袋を掲げると、嬉しそうに元親さんが笑った。
中身は酒と、今日は来れない坊ちゃんから拝借した肴を少々。
さあ、今日は飲むぞ。
番外編 夢にして現
元親さんの住んでいるアパートが、今日の飲み会の会場である。
そんなに広くは無いけれど清潔だし、便利な機械類は揃っているし、
元親さんの獲ってくる魚は美味しいし、そしてなにより不思議と落ち着くので、
ここ最近は元親さんの部屋が皆お気に入りだ。私も例外ではない。
「!待っていたぞ」
「わぁ、嬉しいこと言ってくれるね」
部屋に入った瞬間、薄っすらと頬を染めたかすがにギュウっと抱きしめられる。
わはは、女になってからは触れたい放題だ。どうだ野郎共羨ましかろう。
私も負けじと抱きしめ返すと、何やってんの…と呆れた声が聞こえた。
「ちょっと、旦那の教育に悪いからやめてくれる?そういうの」
「なんですか佐助さん羨ましいんですか。羨ましいんでしょう!」
「…アンタ、もう酔ってんの?」
「実は待ちきれずに道中お酒をちょこっと飲んでしまいました。わはは」
「毛利の車で?ほんとアンタって怖いもん知らずだよね…」
うへへと笑っていると、頭にばすんと衝撃が。思わずかすがから離れてしまう。私の至福が。
恨みがましく振り向くと、車を駐車場に止めてきた元就さんがいた。
「痛いですよ元就さん」
「忘れ物だ」
「あ、忘れてた。すみません有難う御座います」
車に忘れていた上着を受け取ると、元就さんがさっさと座る。
テーブルの上に置いてあった酒を、そのままぐいっと飲み干した。
「あー。元就さんずるい。ちょ、佐助さん私にもください」
「はいはい、そう慌てなくてもお酒は逃げないよ」
「、これもうまかったぞ」
「ありがとう。やっぱ気が利く女子はいいね。だいすきだよ」
「よォし、じゃあメンバーも揃ったことだし、鍋すっか!」
台所から元親さんがぐつぐつ煮えている鍋を持ってきた。
新鮮な魚介類がたっぷりで、とてもおいしそうだ。
部活帰りで疲れたのか、こたつですやすやと寝ていた弁丸くんを起こす。
「弁丸くん起きなさいな。おいしいお鍋だよ」
「、旦那もう弁丸じゃないから」
「あ、うっかり。幸村くん、幸村くん。…駄目だ。なんか慣れないな」
「…ん、む…?」
「おはよう幸村くん、いや、こんばんはかな」
へらりと笑って挨拶すると、覚醒した弁丸くんはむぐりと起きあがる。
それにしても、大きくなったな。やっぱり将来有望だった。
「おお、ではないか!仕事は終わったのだな」
「元就さんとダッシュで終わらせてきたよ。坊ちゃんは今日は遅番」
「そうか、政宗殿は今日はおられないのか…」
「未成年仲間がいなくてごめん。おいしいジュース買ってきたから勘弁しなさい」
私が弁丸くんに構っている間に、こたつの上には鍋の準備が整っていた。
かんぱーい!と酒やジュースの入ったグラスをぶつけて、美味しいお鍋に舌鼓を打つ。
「うーん、おいしい!」
「馬鹿の獲った魚の割には美味だな」
「んだとコラ、魚に罪はねぇぞ!」
「、これは食べたか?美味しいぞ」
「え、ほんと?うわっ、うま!至福だ」
「ちょっと旦那、そんなにがっつくなって」
「長曾我部殿の作られる鍋は、真に美味だな!」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、ホラ、飲め飲め!」
「あっ、姫ちゃんそれ私の秘蔵のお酒!…あ、あ、あー………」
わいわいがやがや、なんとも騒がしく鍋を囲む。
お魚もお肉も野菜も美味しいし、お酒も美味しい。かすがも可愛い。
最期の一言は余計だって?そんなの知るか。可愛い女子は正義なのである。
「毛利の旦那は今日車なんだろ?酒に強いのは知ってるけどさあ、飲んでもいいの?」
「どうせ明日は休みだからな。それに、いずれにしても朝帰りであろう」
「ははっ、確かに。夜の間にお開きになるなんか滅多にないもんな。あっ、旦那、それお酒だって!」
「そうか?甘いぞ?」
「の作る酒は甘いんだって!明日二日酔いになっても俺様知らないからね!」
「大丈夫だと思いますよ、そんな強くないし。はいかすが、あーん」
「えっ、な、何をする?」
「いいからいいから。坊ちゃん特製の肴おいしいよ。はい、あーん」
「…、美味しい」
「はいそこ、いちゃつくなら他所でやってね」
「よっしゃ、魚、追加だぞ!」
いよっ、姫ちゃん大統領!と叫んだら、元就さんに五月蝿いと殴られた。理不尽。
とりあえず静かにしよう、と酒をちびりと舐める。それにしても、本当に縁というものはすごい。
袖振り合うも他生の縁、という言葉はまさに私達のためにあると思えてしまうほどだ。
以前も今もこうやって笑って過ごせていることは、まるで夢のようで。
でも、元就さんに殴られた頭がじんじんと痛むから、現実なんだろう。
なんだか嬉しくなって、騒がしい周りを見回してへらりと笑うと、
お前、とうとうマゾに目覚めたか…?と頬を引き攣らせた元親さんに言われた。心外だ。
その後、元就さんの予想通りに私達は夜遅くまでぐだぐだと騒ぎ続け、
酒と鍋を調子よく胃の中へと放り込んだ私は、案の定途中で寝てしまった。
起きたらかすがの膝枕だったということは、まあ、役得だってことで。
09/05/30
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