自室に敷いてある布団。枕は勿論二つ。洗い立ての白色が目に眩しい。
太陽の香りがなんとも芳しく、ふかふかと寝心地の良い布団に寝転がって
俺はぼすぼすと自分の隣を叩いた。
「さあ稲ちゃんよ、子作りしようではないか」
彼女の唸りを上げた拳が俺の腹に容赦なく叩き込まれた。
さあさお嬢さん、お泣きなさい:後日談
「っだぁぁ!痛い!痛いです」
「そんなに早く撃たれた傷が治るとでもお思いですか!稲を舐めないで下さい!」
「いや舐めさせてくれるなら喜んで舐めちゃうけどね!わぁいうれし」
「殿、ふざけないでください!」
「ぼふっ」
布団の上で転がっている俺の顔面に容赦なく枕を投げつける稲姫。
嫌だなあそんなに照れ隠ししなくったっていいのに。俺、優しくするのに。
「だってもう治ったんだ」
「先程あれだけ痛がっておいででしたが」
「あれは稲ちゃんが殴るからだよ」
先程殴られた腹をさする。おお痛い。
きゅっと眉根を寄せて、なにやら複雑そうな顔で悩む稲姫。
ああ、そんな顔をしていると苛めたくなるじゃないか。
「なら、稲ちゃんが確かめてくれるといい」
にやり、とひとつ笑みを零す。
するりと肩から着物を肌蹴て、上半身を露にした。
途端に稲姫の頬が赤く染まる。戦場に出ていれば男の裸なんて見慣れていそうなものなのに。
そういう純情なところが可愛いんだよなァと内心ほくそ笑む。
「どうした、疑うなら確かめれば良いのだ。確かめないなら俺を止める理由は無いぞ稲姫」
女に二言はないと言ったのは君だろう?口の端を上げて意地悪くそう告げると、
ぐっと稲姫が唇を噛む。しばらくして覚悟を決めたように、震える手で俺の腹に巻いてある晒に触れた。
「…じゃあ、見ます!」
「よろこんで」
晒をするすると解いていく稲姫の顔を見ながらにやにや笑う。
たどたどしい手つきで触れられると、嗚呼、堪らない!
時々肌に触れる彼女の指先が、びり、と背筋に快感を与える。
「…傷は、塞がっていますね」
「だろう?」
「でも赤いです」
「それは先程稲ちゃんが殴ったからだ」
じい、と俺の腹の傷を見つめる稲姫。そんなに真っ直ぐ見つめられると、どうにも興奮してしまう。
きゅっと目を細めて、稲姫の肩を掴もうとした、その時。
つん、と稲姫が俺の腹の傷を、突いた。
ずくり、と。どう頑張っても快感ではない衝撃が、俺の背骨を駆け抜ける。
「ッッ痛ぇ!!」
「…治ってないじゃないですか」
ごろごろと布団の上をのたうち回る俺を呆れた表情で見下ろす稲姫。
嗚呼、そんな眼差しも素敵だ。踏んで欲しい。
しかしその後、稲姫から無常にも突きつけられた「やっぱりお預けです」の一言によって、
俺は撃沈することになるのであった。嗚呼、俺と稲姫の甘美な毎日への道のりは遠い。
09/03/29
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