「…殿」
「なんだい稲姫」
「殿は、このように卑怯な真似をしてまで、稲を手に入れたいのですか」
「勿論」
即答。当たり前だろう、お気に入りのものは一度掴んだら離さない男だぞ俺は。
「稲姫だって、俺があそこで負けていてもいつかは嫁に行っていただろう?」
「…分かっています。今は戦乱の世。家のためなら、稲は嫁に行かなくてはなりません。
しかし、稲は武士として生きたいのです。女としてではなく、武士として生きたい」
俯くことなく、こちらを真っ直ぐ見据えて語る稲姫。
初めて彼女の本音を聞いたような気がした。
ふう、と息を吐き、読んじゃいなかった書物を閉じる。
「家って、大事だよね。家あってこその武士、家あってこその俺。
そして父と弟あってこその俺。俺は家がないと何もできねぇよ」
「殿は、女は家には必要ないと?」
「んなことは言っていない。できることをやるというのが大切なんだ。
例えば、うちの弟は戦をとても頑張っている。しかし俺は弟より弱いので、たいして戦では役に立たない」
戦が恐ろしく強い我が弟は誇らしい。だが俺は戦が下手だ。
じゃあ俺に何ができる?
「そこで、俺は思った。俺のできることをしないと。
ってやってみたら、できることをやるって、意外と難しいんだよね。全然できねぇし」
肩をすくめて笑う。そんな俺を見て、稲姫は更に問う。
「女が戦に出るのは可笑しいと思われますか?」
「いや、いいんじゃねぇの?俺は敵に女がいると悦んじまうタチだし。
弟は嫌がるがな。人は人、俺は俺だ。とまあ冗談はさておき。
現に今戦が起こったとしたら、稲姫は第一線で戦える戦力だろ。
しかも俺より強い。使わない軍師がいるか?」
「…けれど、稲は殿に負けました!」
「そりゃ俺が卑怯だからだ」
そう言って、油断していた稲姫をあっという間に畳の上に押し倒す。
目を見開く稲姫。灯りに照らされた細くて白い首筋に噛み付きたい。
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ボツにした自室での場面。ほんとはもっと長かったんですが割愛。
シリアスの収拾がつかなくなってしまったのと、主人公が果てしなくSになってしまったのと、
このままだと永遠に稲姫がデレないという理由でボツ。
部屋に来るまでの展開も、稲姫の武器を没収して「返してほしかったら俺の部屋に来い」という
それなんて鬼畜?という流れでした。最後には泣かせてしまう最低の主人公。
そんな私はエスです本当にごめんなさい。思いつきのまま書くからこうなるんだ!